
予想通りに不合理
行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
なぜ私たちは時に不合理な選択をするのかを行動経済学の視点から解き明かす。錯覚や感情が意思決定に与える影響を豊富な実験で示し、あなたの行動の「なぜ?」を深掘りする一冊です。
なぜ人は「不合理」な選択をするのか? ダン・アリエリー『予想通りに不合理』が暴く行動経済学の真実
あなたの選択は本当に「合理的」ですか? 行動経済学が示す驚きの事実
私たちは日々の生活の中で、様々な選択をしています。今日のランチは何にするか、どの服を買うか、どんなサービスを利用するか。その一つひとつの決断は、すべて自分の意思で、合理的に下されている――そう信じている人は少なくないでしょう。しかし、本当にそうでしょうか?
デューク大学教授であり、行動経済学研究の第一人者であるダン・アリエリー氏の著書『予想通りに不合理:行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』は、その常識を根底から覆します。2013年に出版され、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにも名を連ね、アメリカメディアから絶賛された本書は、私たちがいかに不合理な決断をしているかを、数々の興味深い実験を通して明らかにしていきます。
「行動経済学」とは? 心理学と経済学が融合した新分野
本書のテーマを理解する上で欠かせないのが、「行動経済学」という学問です。これは、従来の経済学が「人間は常に合理的に行動する」という前提に立っていたのに対し、「人は必ずしも合理的には動かない」という考え方をベースに、人の経済行動をより現実的に分析しようとする新しい学問分野です。心理学の知見を取り入れることで、人間の感情や認知の偏りが、私たちの意思決定にどう影響するかを探ります。
『予想通りに不合理』では、人が選択する際に陥る不合理な行動について、「相対性」「需要と供給」「無料の力」「価格の力」など、実に15もの項目にわたってその影響を検証しています。
衝撃の実験結果! 「おとり価格」があなたの選択を操るメカニズム
本書で紹介される数々の実験の中でも、特に示唆に富んでいるのが「相対性」の章で語られる「おとり価格」の例です。これは、あるアメリカの新聞社が提供していた3つの料金体系を題材にした実験です。
【最初の料金体系】
- WEB版の購読:5,000円
- 印刷版の購読:10,000円
- WEB版と印刷版セット購読:10,000円
皆さんはこの3つの選択肢を見たら、どれが一番お得だと感じるでしょうか? 論理的に考えれば、印刷版の購読が10,000円であるならば、同じ10,000円でWEB版も付いてくる「WEB版と印刷版セット購読」の方が圧倒的にお得だと感じるはずです。
100人の学生による実験:予測通りの結果…しかし、その後に異変が?
この料金体系で実際に100人の学生に購読プランを選んでもらったところ、以下のような結果になりました。
- WEB版の購読:16人
- 印刷版の購読:0人
- WEB版と印刷版セット購読:84人
予想通り、「印刷版の購読」を選ぶ学生は皆無で、ほとんどの学生が「WEB版と印刷版セット購読」を選びました。ここまでは、いたって合理的な選択に見えます。しかし、ここからが「不合理」の真骨頂です。
「おとり」が消えたら、選択が激変した!
次に、この実験から「印刷版の購読(10,000円)」という選択肢を意図的に排除し、以下の2つの料金体系で再度100人の学生に実験を行いました。
【2回目の料金体系】
- WEB版の購読:5,000円
- WEB版と印刷版セット購読:10,000円
通常の経済学の理論からすれば、最初に誰も選ばなかった「印刷版の購読」がなくなったところで、結果は大きく変わらないはずです。しかし、驚くべきことに、その結果は大きく変動しました。
- WEB版の購読:16人 → 68人
- WEB版と印刷版セット購読:84人 → 32人
「印刷版の購読」という選択肢がなくなっただけで、WEB版を選ぶ学生が激増し、セット購読を選ぶ学生が大幅に減少したのです。これはまさに「不合理」としか言いようがありません。
このケースにおける「印刷版の購読(10,000円)」は、まさに「おとり価格」として機能していました。このおとり価格が存在することで、人々は「WEB版と印刷版セット購読」が非常に魅力的に見えるように誘導されていたのです。おとり価格がなくなると、比較対象が変わり、人々の選択そのものが変化してしまいました。
人は「相対的」な優劣で価値を判断する
この実験結果から導き出される結論は、私たちは何かを選択する際、その選択肢そのものの絶対的な価値だけでなく、周囲にある他の比較対象に大きく影響されるということです。
私たちはもともと、他のものとの相対的な優劣に着目し、そこから価値を判断するという習性を持っています。上記の新聞社の戦略は、WEB版と印刷版のどちらが良いかという迷いを生じさせつつも、印刷版単体の購読とWEBと印刷のセット購読を比較させることで、セット購読が圧倒的に得に見えるように巧妙にユーザーを誘導していたのです。これこそが、行動経済学でいう「相対性」という概念です。
日常にあふれる「不合理」の罠と、賢い選択のためのヒント
『予想通りに不合理』では、「おとり価格」の他にも、同じ頭痛薬なのに価格が高い方が効果があると感じる「プラセボ効果」など、私たちの行動を深く洞察する興味深いテーマが数多く紹介されています。
私たちは普段、自分が合理的に行動していると思い込みがちですが、実は様々な心理的要因や環境に影響され、予想もしない不合理な決断を下しているのです。本書を読めば、なぜあの時、あんな選択をしてしまったのか? なぜ私たちは特定のブランドや商品を選んでしまうのか? といった疑問の答えが見つかるかもしれません。
本書は、行動経済学という少し難しい分野を、ダン・アリエリー教授自身のユニークな視点と、ユーモアを交えた数々の実験を通して、非常に分かりやすく、そして面白く解説しています。
もしあなたが、
- 自分の決断が本当に正しいのか、客観的に見直したい
- マーケティングやビジネスで人々の行動原理を理解したい
- 日常生活に潜む「不合理」のメカニズムを知りたい
と考えているなら、ぜひ一度『予想通りに不合理』を手に取ってみることを強くお勧めします。この一冊が、あなたの世界の見方、そして意思決定の仕方を大きく変えるきっかけになるはずです。
あなたも、この「予想通りに不合理」な世界で、より賢い選択をするためのヒントを見つけてみませんか?
グラフィックデザイナー/アートディレクター
日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)会員
宅地建物取引士
1982年北海道生まれ。大学卒業後、広告制作会社を経て広告代理店勤務。その後はフリーランスとして、多様な事業形態の中でグラフィックデザイン業務に従事。直近では事業会社にて、通信講座の事業責任者というポジションで、EC事業の運営及びマーケティングを7年に渡り主導。広告業界・デザイン共に20年以上の経験と、Word Pressを活用したWEB・LPデザインは10年の実績があります。特にハウジンググラフィックの実績が豊富で、通信事業で培った経営目線のマーケティングが強み。