
世界観をつくる「感性×知性」の仕事術
現在の世の中では「問題=困っていること」が希少化し、「正解の過剰化」で溢れている。「正解を出せる人」よりも「問題を提起できる人」が希少化しており、それは新しい世界を構想する力を失ってきているということである。私たちは「問題=困っていること」を解決するために物やサービスを買う。しかし数少ない「問題」についてみんなが論理的に正しい答えを追い求めた結果、どれも全てが同じ正解に行き着いてしまった。「その問題を解くことで大きな価値が生まれる」という「問題」を発見することが難しい世の中になっている。
意味をつくる
モノが過剰、便利が過剰、正解が過剰
日本企業はずっと「役に立つという価値」で戦ってきたけれど「役に立っている価値」は過剰になってしまい、「意味があるという価値」が希少になった。つまり、「意味がある」こそ「価値がある」時代に変わった。すなわち「役に立つという価値」=「文明」であり「意味があるという価値」=文化」である。今後は「文化」を創り上げていくことが日本企業の「価値」となる。
明治以降の日本は、欧米のお金や文化やアメリカの考え方が一気に入ってきて、急激に文明を発展させていったがゆえに、文化レベルが追いつかなかった。文明で世界と肩を並べることができたが、目指すべきお手本がなくなってしまい、日本独自の文化を発展させていくことができなかった。
<自動車の「意味」はヨーロッパの貴族文化から始まった>ヨーロッパ車はブランドが生まれているが、日本車には生まれていない理由。歴史や文化を考えずに「機能や文明」の方にシフトしたがゆえに、美しい形が生まれなかった。
ブランドになれない一つの理由としてエンブレムが挙げられる。
・日本車:ほとんどがイニシャル(意味をまとめ上げることができない)
・アルファロメオ:大量の情報が集約されている(歴史、貴族のブランド、ミラノの郷土愛、誇りなど)
「意味がある」を体現している会社の例が「バルミューダ」。他社製品なら2,000円で買えるトースターを2万円で売り、10年間で売上が1000%成長している。それは機能ではなく「意味がある」というニッチを追求した結果であり、SNSの力で世界中のニッチ市場を開拓することに成功している。
物語をつくる
世界観を伝えるためには?
いい広告はブランドをつくれる<水野学・相鉄のCMブランディング例>
『100 years train』→まだ見てない人はぜひ
・テレビCM15秒では「意味=世界観」を伝えられない
・約3分半のWeb Movie形式のCMを提案
・役に立つ情報たくさん入れたくなるが、告知情報を徹底排、「役に立つ」VTRにしない、相鉄が伝えたい「世界観」をVTRに
・テロップは「100年の想いを乗せて」「相鉄は都心直通」だけ(都心直通を告知するムービーなのに情報量が少ない)
・SNSで話題に、さらに口コミで広がり、見た人たちに感動を伝えた
結論、観た人の心に刺さるものは、こちらから情報をバラまかなくても、自分からわざわざアクセスして情報を取りに来てくれる
未来をつくる
デザインが未来を連れてくる
1987年Appleは『Knowledge Navigatior』と題したショートフィルムを発表。→まだ見てない人はぜひ
近未来においてコンピューターと人との関わり方について「構想=ビジョン」を示すために作ったもの。ネットワーク、タブレット、タッチパネル、音声入出力、曖昧検索、ビデオチャットなど、現代の世界になってやっと実現しつつある世界観を、Appleは30年前にすでに明確に示していた。
Appleがやったのは「予測」ではなく、「こういう世界が実現したら素晴らしい」という世界観を構想し、それを映像化しビジョンとして提示したということ。この新しい構想と世界観を誤解なく、かつ効率的に多くの人に伝えるために、テキストではなく「ショートフィルム」という表現形式は必然だった。このような考え方から、「問題」が希少化しつつある現代において、「世界観」を構想することが非常に重要であり、その「世界観」を伝えるにはアートやデザインなどの視覚表現が極めて強力なツールになる。
未来を描ける力がいかに重要か。その力がないと「意味」を作ることも「世界観」を作ることもできない。今ここにない未来を想像し、鮮明に思い描き、実現の道筋を考え、アウトプットまでを作り上げる。それがデザインの役割である。
感想
最近マーケテイングにおいて、「ブランディング」や「物語」というワードをよく耳にします。この書籍がまさにその象徴であり、ビジネスにおいて「正解の過剰化」→「商品やサービスの差別化」がとても難しい世の中になっています。情報過多すぎるために、機能や性能だけでは人の心に刺さらず、「意味を持つ」ことや「愛着を感じる」ことが、近年は重要視されている傾向が強いと感じます。
企業のビジョンをストーリーに乗せて、自社の「世界観」を世間と共有し共感を得ることが、今後の事業発展につながっていく。枝葉の戦術よりも幹となる戦略や方向性について、議論することが大切だと認識できた一冊です。
グラフィックデザイナー/アートディレクター
日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)会員
宅地建物取引士
1982年北海道生まれ。大学卒業後、広告制作会社を経て広告代理店勤務。その後はフリーランスとして、多様な事業形態の中でグラフィックデザイン業務に従事。直近では事業会社にて、通信講座の事業責任者というポジションで、EC事業の運営及びマーケティングを7年に渡り主導。広告業界・デザイン共に20年以上の経験と、Word Pressを活用したWEB・LPデザインは10年の実績があります。特にハウジンググラフィックの実績が豊富で、通信事業で培った経営目線のマーケティングが強み。